J1第4節 川崎フロンターレvs名古屋グランパス【スタジアム観戦】2022.3.12 

 堅いな。

 試合終了後、川崎のコーナーキックの守備にそんな印象を持ちました。1-0で迎えた試合終盤に名古屋のコーナーキックが何度かありました。名古屋のキッカーはその時間はマテウス選手と阿部選手が務めていて、キックの質はとても高く、怖さがありました。嫌だなぁ、入っちゃいそうだなぁという怖さが確かにあったのですが、川崎は蹴られたボールを悉く弾き返し、無失点で試合を見事に終わらせています。この怖さ、つい最近にも味わったなと思うと、開幕戦のFC東京戦でした。あの試合でも、もう何本目だというくらいにコーナーキックを浴びていて、FC東京のキッカーもレアンドロ選手と小川選手共にキックの質が高く、コーナーキックの度に緊張しまくった試合でした。幾度となく蹴られてはいるのですが、今季6試合をしてコーナーキックからの失点はまだありません。今までのコーナーキックの守備と比較できていないので、具体的な変化がわからないのですが、セットプレーコーチの指導の賜物だと言えるのかもしれません。ちなみに攻撃時もコーナーキックからの得点が昨年より多い気がします。均衡した試合ではセットプレーが試合を左右することもありますので、これは川崎のチームにとってとても良い傾向だと言えます。

 試合内容としては、今季では鹿島戦に次ぐ良い内容だったと思います。1試合3得点という目標がある中、1得点というところはまだまだ改善していかなければならないところだとは思うのですが、ゴールに迫るシーンが今までの試合よりは多くなってきました。Super Cupも含めて開幕当初は、シュートまで辿り着かないような攻撃になってしまっていましたが、徐々に得点の匂いがするような攻撃になってきています。

 この試合での大きなポイントは家長選手が常に自由なポジショニングを取っていたことだと思います。今までの試合でも、ディフェンスからのビルドアップが上手くいかない時は、家長選手がディフェンスラインまで下りてきたり、ポゼッションをしていて攻めの糸口を作りたい時は、家長選手が逆サイドまで流れることはよくありました。しかし、この試合では時を問わずに家長選手が試合中ずっと常にフリーマンとして動いていました。もちろん主戦場は右WGではあるので、そこを基本位置とはしているのですが、ボールのある所に関わっていくプレーがとても多かったと思います。家長選手がこの動きをすることにより、場面場面で数的優位を作ることが出来、攻撃が活性化したのだと思います。家長選手が本来のポジションを空けることで守備時のリスクが高くなるのですが、前線からのプレスの時も他の選手が流動的にポジションの穴を埋めていた為、攻守共に機能していました。トップ下の選手がこのようなプレーをすることはよくあり、例えばマリノスのマルコス選手なんかが代表的ですが、右WGの選手がこれだけ自由に動き回るのはあまり観たことがなかったので新鮮でした。確かに川崎では去年のチームの調子が良い時に、旗手選手が左SBを務めていた際もかなり自由に動いていたので、それを考えれば右WGが自由に動くのもアリかと妙に合点がいった次第です。

 川崎の得点シーンはとても良い形でした。チャナティップ選手からのスルーパスの軌道上には、手前にダミアン選手、奥にマルシーニョ選手と、2人の選手が1本のパスの受け手になっていたので、名古屋としては守り難い形だったと思います。最終的にパスの終着点となったマルシーニョ選手が、名古屋GKランゲラック選手との1対1の局面から冷静にゴールを決めることに成功しています。ややカウンターのような形で相手チームの選手が下がりながらディフェンスをしなければならない状況において、3人の動きによって効果的に守備を崩すことができたシーンと言えます。

 マルシーニョ選手については、その後もスルーパスに抜け出して、キーパーと1対1になるシーンがあったのですが、ループシュートを狙って外してしまいました。線審の判定で結果としては抜け出した位置のオフサイドとなりましたが、かなり余裕があるシーンでしたし、しっかりとゴールして欲しかったと強く思っています。と言うのも、「決めてもオフサイドだったから外したけど仕方ない」という風に思って欲しくないのです。少し前だったらそれでもよかったかもしれませんが、VARが導入されたからにはそうも言っていられません。もしこのループシュートがしっかりとゴールに入っていれば、線審がオフサイドと判定してもVARの確認が入ったからです。現にリプレイのスロー映像を観ると、実際にはオフサイドではなさそうにも見えるシーンでした。となれば、結果としてゴールと認められて立派な得点となるからです。しかし、ゴールに入っていなければ何の確認も無く、当然このシーンはただのオフサイドとして扱われます。「決めてもオフサイドだったから外したけど仕方ない」という風に思って欲しくないとは言いましたが、恐らくマルシーニョ選手は「外したけど仕方ない」とは思っていないと思います。外して悔しいはずです。ですので言い換えますと、「決定的なシーンは確実に決める覚悟を持って欲しい」ということです。あのシーンでループシュートを選択したのが正しかったのか、あの距離のループシュートよりゴールの可能性が高いプレーは他に無かったのか、そこを考えて突き詰めていって欲しいなと思いました。サッカーに"たられば"の話は禁物と昔から言いますが、それは後から結果が変わることの無いことが前提の話であって、VARが導入された今のサッカーでは一部の"たられば"は現実のものとなります。このようにルールの変化に向き合いながらプレー選択肢を変えていくことは、この先もとても大事なことだと思いました。

 良かった点を挙げ始めるとキリが無くなりますが、谷口選手と橘田選手の意識の高さはこの試合でも際立っていました。特に、攻守の切替の時やアウトオブプレーで試合が止まった直後にそれが現れていました。谷口選手は名古屋のカウンターを防ぐために、左サイドで自分がアタックして相手のプレーを途切れさせた直後のスローインに対し、背を向けて元のポジションに戻りながらもスローインのことをケアしていて、パスカットしていました。後半で2回くらいそのようなシーンがありました。橘田選手も後半37分頃に、川崎が名古屋をペナルティエリアまで押し込んでいる状況でボールロストした際に、攻撃のポジションを確保しながらも名古屋に一番パスを通されてはならない所をケアしていて、パスカットしていました。この2人のプレーからは攻と守、インとアウトという切れ目が無く、試合時間の中では常に高い集中力を持って、連続してプレーしているのを感じました。常に集中して連続してプレーし続けるのは本当にすごいことだと思います。頭も体もとても疲れるとは思いますが、それを90分間やり通すこの精神性こそがトップ選手に成り上がっていくのに必要な要素なのかもしれません。

 名古屋についてはまだ新監督のサッカーに馴染めていない部分があるのかなと、攻守において感じる部分がありました。選手同士が探りながらプレーしていた印象です。その為、どうしても球際の強度が上がってこない感じがしました。そんな中、ボランチの2人はやはり存在感がありました。特にレオシルバ選手は試合の組み立てで川崎のプレスを外すのが非常に上手でした。フォーメーションとしては、両WGが下がらされていて4-3-3というよりは4-5-1に近い形となっていて、1トップの酒井選手が孤立気味になり、ゴールキックからの空中戦でもあまり勝てていなかったので、2トップにしてオーソドックスな4-4-2の方が怖いサッカーとなっていたかもしれません。経験豊富な良い選手が多いので、チームとして形になってくるとかなり怖い存在になってくるのかなと思いました。個人的には以前に川崎に所属していた阿部選手と齋藤選手のプレーを久々に観られたのが嬉しかったです。

 川崎の皆さん、ホームでの勝利おめでとうございます!勝利を重ねながら強くなっていくチームを今年も期待しています!