FUJI FILM SUPER CUP 2022(川崎フロンターレvs浦和レッズ)【TV観戦】 2022.2.12

 浦和レッズの完勝、という試合でした。 

 0-2という結果も順当だなと。浦和の運動量・球際の強度は川崎よりも激しく、川崎の「人」を動かして空いたスペースを一つ一つ突いていく。突き方は、空いたスペースに味方が侵入してパスを繋ぐに止まらず、サイドに人が密集していれば逆サイドに大きく展開、前に行けると思えばドリブルで強く推進していく。

 守るにしても、エリア毎に守備のブロックをしっかりと作り、自陣深く入られればペナルティエリアに侵入されないよう、侵入されてもボールをクリアできるように、ゴール前をコンパクトに固めていました。例えるならバネのような、押されれば縮まり、その負荷が無くなれば勢いよく伸び返し、そしてまた元の形状に戻る。バネ自体が上下に移動はするけれども、バネが伸び切って元の形状を失うことはない。しっかりと組織的な守備ができていました。

 その組織的な守備も一人一人が目の前の相手に負けていたら崩壊してしまうわけで、チーム全員が目の前の相手に1対1では絶対に負けないという気迫を持ち、現にそれを実行できていたことも特筆すべき点であったと思います。

 浦和は、試合の序盤からハイプレスを掛けて、川崎に思うようなビルドアップをさせませんでした。川崎のCB2枚の谷口選手・車屋選手、そしてGKのソンリョン選手はパスの出し所が無くなり、1トップのダミアン目掛けて、クリアに近いロングボールを蹴らざるを得ない状況が何度も続くような展開に。ロングボールの目標のダミアン選手には、浦和のCB2枚の岩波選手・ショルツ選手がしっかりとラインコントロールをしながら付いて、思うようにボールを保持させない対応がしっかりとできていました。

 そんな中、浦和は、川崎陣内でのスローインのルーズボールを無理に繋ごうとした川崎からボールを回収し、そのままの勢いでペナルティエリア付近まで侵入。川崎守備陣の動揺を尻目に前半6分という早い段階での先制点を上げることに成功しました。酒井選手のクロスを入れるタイミングと出し所、江坂選手のワンタッチでファーサイドに流すシュート、どちらもお見事でした。

 この試合で浦和の取ったハイプレスの戦術は特別珍しいわけでは無く、他チームとのリーグ戦でも何度も見られた光景です。この手に対して、昨年までの川崎は相手のハイプレスをも上回るパスワークによって、前線へとボールを運び、攻撃の形を作り出すことが出来ていました。しかし、この日はハイプレスに捕まってしまった。この大きな要因として、逆三角形に配置された中盤3枚の機能不全を私は考えています。

 川崎の中盤3枚は川崎のサッカーの屋台骨です。逆三角形の頂点3選手がそれぞれ場所を入れ替わり立ち替わりすることで、▽がクルクル回転してパスコースを作り出し、さらに正確なパスワークによって、相手チームのプレスをすり抜けていました。この入れ替わり立ち替わりする中盤3枚の流動性が、この試合においては極端に少なかったかなと。選手の特徴の話になりますが、シミッチ選手は、何度も動き直してパスコースに顔を出すタイプではありません。その為、逆三角形の下の頂点、アンカーと呼ばれる位置に張り付くことが多い印象があります。そうなると逆三角形が▽の形のまま固定、もしくはシミッチ以外の2頂点の選手が動くことで逆三角形が崩れてしまい、相手がプレスを掛けやすい状況が生まれてしまいます。この状況への浦和プレスがモロにハマってしまった、そんな印象の試合の立ち上がりでした。

 浦和が先制点を奪った後もこの状況は続いたため、川崎は中盤3枚の逆三角形は固定したまま、右WGの家長選手がアンカーであるシミッチ選手の位置辺りまで下がって、ビルドアップに参加し、浦和のプレスを回避するようになりました。そのようになってからは川崎が浦和を押し込むような展開が生まれるようになりましたが、前半は0-1で浦和リードのまま終了。後半を迎えることになりました。

 後半開始と共に、川崎の鬼木監督は、シミッチに代えてマルシーニョ選手を投入。中盤の3枚をアンカーから時計回りに、大島選手・チャナティップ選手・脇坂選手へと変更しました。鬼木監督が同じことを感じていたかは定かではありませんが、左ウイングの交代により中盤3枚にテコ入れをした形です。試合後の鬼木監督のコメントでは、前半は相手のディフェンスラインの裏に対する仕掛けが少なかった為、裏への仕掛けを増やす意図がこの交代にはあったということです。

 確かに後半はマルシーニョ選手が裏への仕掛けを増やし、浦和のディフェンスラインを下げる働きをしてスペースを生み出すことによって、川崎がボールを回せるようになっていました。浦和は先制して折り返したこともあり、前半程のハイプレスはしなくなった印象で、川崎の中盤3枚に手を加えたことによる効果があったかはイマイチ分かりづらくなりました。というよりも、浦和が川崎のその修正を上手くかわしてきたようにも思えました。アンカーとなった川崎の大島選手はパスの受け出しとボールコントロールが非常に上手な選手ですので、不用意に飛び込んで守備陣形が乱れないようにした感があります。

 後半は川崎が浦和のアタッキングサードまでボールを運び、川崎が攻め切った形を作るか、浦和がボールを奪ってカウンターに出るというような割とオープンな展開が目立ちました。川崎は浦和の守備ブロックを崩すことができず、単純なクロスを入れてしまうことが多かった気がします。これは先述した浦和の選手一人一人が目の前の川崎の選手との1対1に負けないことで、次の手に困って単純なクロスを上げてしまっていたからのように思います。このクロスが失敗に終わり、浦和ボールとなっていました。

 また、オープンな展開となり、川崎が浦和を押し込み切れなかったのは、こちらも中盤3枚が要因となったと考えられます。単純に言ってしまうと中盤3枚の守備力です。極端に言ってしまえば、広い中盤のエリアを3人だけでカバーすることになる為、この3人の総合的な守備力がとても重要になってきます。川崎の中盤3枚は逆三角形での配置なので、前2枚はゴール前に侵入していくなど攻撃のタスクも多く担い、中盤の底であるアンカーの選手の守備能力はとりわけ特に重要になります。川崎が2020年・2021年と連覇をした時に、川崎のアンカーのポジションには守田選手・田中碧選手がいました。この2人はボールコントロールも巧みですが、運動量と守備能力も極めて高く、2人とも川崎と同じフォーメーションを採用している日本代表のスタメンとして出場していることからも明らかです。この2人の選手がアンカーとしていることで、川崎の中盤3枚の守備力を高いものにしていました。2021年に田中碧選手がシーズン途中で抜けた時には、川崎はしばらく勝てない時期が続き、この状況を打破することができたのは、新たなアンカーとして橘田選手が台頭してきたからです。彼もボールコントロールが巧みな上、豊富な運動量と守備能力を兼ね備えています。

 この試合では橘田選手が欠場しており、アンカーはシミッチ選手が務めています。シミッチ選手・脇坂選手・大島選手はいずれも守備能力が低い訳ではありませんが、どちらかと言えば攻撃的な選手です。後半にシミッチ選手の代わりに中盤に入ったチャナティップ選手もやはり攻撃的な選手です。逆三角形の中盤3枚にいずれも攻撃的な選手が配置されることにより守備力は落ち、浦和陣内に攻め入ってボールロストした際のプレス→即時回収ができておらず、浦和にカウンターを受け、川崎は自陣まで戻らされるシーンが多く生まれています。このような展開になると川崎の選手は運動量も増え、悪循環を繰り返すことになってしまいます。川崎としては、橘田選手の代わりがいればいいのですが、現在では代わりがいないように思います。今後を見据えた時に、橘田選手がいない且つ橘田選手の代わりとなる選手もいない状況で、中盤3枚を攻撃的な選手で構成せざるを得ない時は、中盤3枚を逆三角形ではなく、三角形型△にして、ダブルボランチ+トップ下のような形に配置する必要もあるのではないかと私は思いました。これにより攻撃力が落ちる可能性ももちろんありますが、アンカーに特別な守備力を求めるのか、トップ下に特別な攻撃力を求めるのか、この2択を考えた時に、脇坂選手・大島選手・チャナティップ選手・小塚選手など攻撃的な才能を持った選手たちがいることを考えれば、トップ下に特別な攻撃力を求めた方が良いと思うのです。鬼木監督には今シーズンのオプションとしてぜひ考えておいて欲しいポイントであります。

 後半のオープンな展開が続き、川崎が同点ゴールを狙いに前掛りになっている状況で、浦和の2点目が生まれています。川崎がボールロストして浦和のカウンターを受け、浦和の明本選手が川崎の車屋選手にマークに付かれながらもペナルティエリア付近までボールをキープ、後ろから走り込んだ江坂選手にパスを落とし、江坂選手も谷口選手をドリブルでいなしてシュートを逆サイドに流し込む形でゴールが生まれました。まるで2vs2のシュート練習をそのまま試合で実行したような綺麗なゴールだったと思います。

 試合の流れは大きく変わらずにそのまま試合は終了。浦和は自分たちのサッカーに自信を深め、川崎は自分たちのサッカーの課題が浮き彫りになった試合でした。Jリーグ開幕を翌週に控えるという状況で行われたこの試合で、両チームともに得られたものは大きかったように思います。本当に良い試合でした。

浦和レッズの皆さん、タイトル獲得、おめでとうございます。