J1第10節 川崎フロンターレvs浦和レッズ【スタジアム観戦】2022.3.2

 選手みんなで掴み取った勝利!

 川崎としては、前節同様に試合前から思いを抱える一戦でした。2月11日に開催されたFuji Film Super Cupで完敗した相手と時間を置かずまた再戦するという状況は、周囲からもリベンジマッチという捉え方をされますので、監督を含めたチームスタッフや選手たちの思いも色々なものがあったかと思います。浦和としても、リーグ開幕前の一戦で昨年のリーグ王者に完勝し、今季の良い手応えを感じながら迎えたシーズンにおいて、開幕から3戦して未だ勝利を挙げられていない事に、こちらも思いを抱えた一戦だったと思います。

 スタメンのメンバーに若干の違いはありますが、お互いにFuji Film Super Cupで敷いた布陣と同じでした。前半は浦和ペースの展開となり、川崎は連戦の疲れもあるような感じで、鹿島戦ほどの強度のあるプレスを掛けられず、プレスに行っては剥がされてしまい、浦和に攻撃の主導権を持っていかれた格好となりました。プレスを外して空いたスペースを使って、という攻め方が浦和は本当に上手だなと思います。ボールホルダーへのフォローが常に行えていることと、選手同士の距離間が遠過ぎず近過ぎずで良いと思います。選手の距離間の良さは守る際にもメリットになっていて、ボールロストした際の攻守切替時、良いプレッシングが掛けられることや、守備ブロックを整えるまでの速さに繋がっています。川崎はプレスが上手く掛からない、ボールを奪ってもアタッキングサードになかなか入れない、と攻守において浦和に封じられてしまっていました。珍しくパスが長過ぎて合わないことも目立っていました。これまでの試合で好調だった遠野選手も今季初めて左WGとして先発し、サイドから斜めの動きで幾度もディフェンスラインの裏を狙っていましたが、ボールホルダーと呼吸が合わずにパスが出てこないなど、どこか上手くハマらない展開だったと思います。

 そんな中、川崎に登里選手の負傷というアクシデントが起きてしまいます。左SBを本職とする佐々木選手は体調不良、車屋選手は負傷離脱中ということもあり、交代には塚川選手が投入されています。塚川選手は恐らく、右SBの練習はしていたと思うのですが、左SBはやったことが無く、ぶっつけ本番だったと思います。塚川選手には気負いもあったと思いますが、投入されて間もなくボールをヘディングでクリアしようとした際に、接触プレーでファウルしてしまい、浦和からすると良い位置でのフリーキックを与えてしまいます。勝手な印象なんですが、塚川選手は気持ちが入り過ぎて、体を投げ出してのプレーが多く、投入直後に怪我やカードをもらうシーンが多い気がするので、気持ちが入りつつも怪我やカードのリスクは下げつつのプレーを目指して欲しいなと思います。

 この塚川選手が与えてしまったフリーキックから川崎は失点してしまいました。浦和の岩波選手がキッカーの馬渡選手としばらく2人で話した後、ゴール前に行き、結局この2人のホットラインでゴールを決めています。川崎に以前所属していた馬渡選手に川崎のセットプレー時の守り方の穴を突くアイデアがあったのか、岩波選手にアイデアがあったのかはわかりませんが意図した形から見事にゴールを決めています。

 塚川選手は自分が犯したファウルから失点したことにより精神的な動揺はすごかったと思います。ただでさえ慣れぬ左SBでのプレーもあり、しばらくは浦和にも目を付けられて強くプレスを受けていました。狙われていたというと、塚川選手だけではなく、山村選手もビルドアップの際には狙われていました。浦和は谷口選手と橘田選手からのビルドアップを制限する意図を持っていたと思います。ビルドアップ時は最終的にソンリョン選手、山村選手、塚川選手へボールが向かうようにプレスを掛けて、効果的に川崎の攻撃を封じることに成功していました。そして、浦和のカウンターの際には、明本選手のスピードを活かした裏への抜け出しは、川崎にとっては非常に脅威となって再三ゴールを脅かしています。山村選手のスピードとの差で、少しルーズな前線への配球でも明本選手の抜け出しとスピードで追いついて、シュートシーンを生み出すことが出来ていました。山村選手はカウンターの際にも狙われていたと言えます。

 こうして川崎は不安な要素を抱えたまま1点のビハインドを背負って前半を終了しています。前半が終了して、私個人的には川崎はダブルボランチにした方が良いのではないかと感じていました。自陣でのボール回しの人数を増やして、まずはパスを組み立て易いようにすることと、守備も中盤の底に2枚いた方が安定すると思ったからです。シミッチ選手と小塚選手がベンチにいましたし、左SBで起用することとはなりましたが、塚川選手もベンチにいたわけで、鬼木監督の中にダブルボランチの考えもあるんじゃないかと思ったこともあります。

 後半に入って両チームともに特にメンバーの変更も無く、試合の流れは前半同様に浦和ペースのまま進みます。川崎はなかなか攻撃の糸口を掴めず、ボール回しも上手くいかないので、浦和の守備に引っ掛かることが多く、前半同様に浦和の明本選手のカウンターに苦戦していました。すると、後半10分が経過したくらいの時に、川崎はCBの谷口選手と山村選手のポジションを入れ替えています。いつの間にか入れ替わっていたのですが、山村選手がスピードで置き去りにされて、谷口選手がカバーをしたシーンから考えると、その方が賢明だなと思って試合を観ていましたが、明本選手が山村選手サイドに再び寄ってきたら嫌だなとも思って試合の続きを観ていました。そして、さらにその後しばらくしてプレーが止まった時に、チャナティップ選手が左SBの塚川選手に身振り手振りで丁寧にポジショニングの指示を出していました。加入したばかりなのにもうチャナティップ選手は塚川選手にポジションの指示ができるんだ、と微笑ましく見ていたのですが、チャナティップ選手本人と塚川選手、左CBに移った山村選手を三角形で結んでボールを動かしてというような内容だったと予想されます。

 この時は全く気付かなかったのですが、CBの入替と、左サイドの選手の立ち位置の修正、この2つが試合のリズムを徐々に変えていったと思います。気付くと川崎のパスサッカーがらしさを取り戻し始め、攻撃に活気が出てきます。試合中にはどちらのシーンも単発のイメージとしてしか捉えていなかったので、CBの入替でそんなに試合のペースが変わるかな?でも明らかに変わっているな、と不思議な感覚で試合を見続けていました。CBの入替で浦和のカウンターを決定機に繋げないというところは理解できたのですが、谷口選手もボール捌きが上手な中で、山村選手と位置を変えただけでそんなにゲームが変わるかな、という疑問はどうしても払拭できなかったからです。しかし、試合は川崎ペースで進み続け、62分に脇坂選手のコーナーキックから家長選手がヘディングで同点ゴールを決めます。今年はコーナーキックからの得点が多くなっている気がします。流れからの得点が減っている分、貴重なゴールです。続く2分後の64分には勝ち越しゴールが生まれます。左サイドでキープした塚川選手が中央の脇坂選手へパスを出し、脇坂選手がトラップを引き付けるだけ引き付けて、チェックに来た相手をターンで一瞬でかわしてペナルティエリア内まで侵入。自身でシュートは打てませんでしたが、右サイドでフリーだった山根選手にパスを出し、山根選手は利き足とは反対の左足で綺麗なシュートをゴールへと放ち、川崎は逆転することに成功しています。

 この逆転ゴールの後も川崎はペースを握り続け、76分には小林選手と小塚選手を投入して3点目を狙いましたが、同じタイミングで浦和も3選手を替えて、流れが浦和に戻り始めます。得点に結び付くプレーを小林選手も小塚選手もしたかったと思いますが、ディフェンスに奔走するような展開になりました。浦和は攻撃の圧力を掛け、再び試合を振り出しに戻す同点ゴールを狙いに行きます。川崎とすればまるで開幕のFC東京戦を思い出すかのようなヒリヒリするような守りの時間帯が続きましたが、なんとか凌ぎ切り、試合は2ー1で川崎の勝利となりました。

 浦和は前半で追加点を奪いたかったのが正直なところだと思います。試合内容的にはすごく良かったのに「点が入らない」ただそれだけなんです。でもこの「点が入らない」というのがサッカーでは不思議なもので、よくあることではあります。原因はあるはずなのですが、一見するとわからないので、とても恐ろしいことではあるのですが、「ゴールが決められなかった」という点以外は良かったと前向きに取り組んで、チームが勢いに乗るきっかけを次節には掴んで欲しいと思います。

 試合が終わってスタジアムを後にする時に、前半終了の時点では川崎が良くなかったので、ダブルボランチに変更した方が良いと自分では考えていましたが、フォーメーションを変更せずともあそこまで試合の展開が変わるものなのかと感動しながら勝因を考えていました。やっぱりCBの位置を変えたことしかこれといって転機が見当たらないなと思ってしばらく考え込んでいましたが、ふと、塚川選手の後半の出来の良さを考えるようになりました。もちろん本人が落ち着いてプレーをして、本来のポテンシャルを発揮したことが全てなのですが、そうなるきっかけはハーフタイムの気持ちの整理だけだったのかと考えたときに、チャナティップ選手が塚川選手を指導していたシーンを思い出しました。あのシーンから左サイドの選手の連携が向上したような気もしていて、塚川選手のプレーが良くなったきっかけになっているように思えてきたのです。そう考えると、後半に川崎の攻撃に活気が戻ったのも納得がいくようになりました。鬼木監督の試合後のコメントではCBの入替は選手の判断で実施されたとのこと。CBを入れ替えてカウンターを防ぎ、選手同士が話して攻撃時の左サイドの選手のポジショニングを修正し、コーナーキックから得点、流れの中から得点、とそれぞれのシーンを回想した時に、選手全員の顔が自然と浮かび、今日はみんなで掴み取った勝利だなと思えた試合でした。

 川崎の皆さん、勝利おめでとうございます!サッカーの奥深さを改めて感じる試合でした!ありがとうございます!